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女子教育と開発
東京大学先端科学技術研究センター特任助手 結城貴子

1.課題の定義

 半世紀以上も前から、国際連合は性による差別の撤廃を訴えてきた。しかし、依然として女性は男性ほどに教育の機会を享受していない。全世界で初等教育にさえ通っていない児童は約1億400万人いると推計されるが、そのうち6割近くは女子なのである。不平等な教育の機会は、職業など多岐に渡るジェンダー不平等の結果であり原因でもある。教育における女子をターゲットとした政策及びジェンダーに配慮した両性に対する政策が、教育のジェンダー平等を達成するために必要とされている。

2.歴史的背景:国際的な公約における女子教育

 1948年の「世界人権宣言」や1960年のUNESCO総会で採択された「教育における差別に対する国際条約」のように、国際連合において教育の権利と男女平等の原則は早くから認められてきた。しかし、開発における女子や女性の教育問題が注目されるようになったのは1970年代になってからである。
 国連総会は1975年を「国際女性年」と定め、さらに、その年に開催された第一回国際女性年世界会議(メキシコシティ)後の10年間を「国連女性の10年」(1976-85年)として、平等、開発、平和を目指すことを宣言した。女性の教育機会の向上も開発の優先事項として含まれた。1979年に国連総会で採択された「女性に対するあらゆる差別の撤廃に関する条約」は、女性と男性の平等が意味するところのものに関する国際的基準となり、教育に関する条項も含まれている。
 国連女性の10年の締めくくりである1985年の第3回世界女性会議(ナイロビ)で採択された「女性の地位向上のためのナイロビ将来戦略」(1986-2000)では、教育は女性の地位の促進と改善のための基盤であると明言され、女性の教育に関し様々な提言がなされた。女性の識字率の向上、ジェンダー・ステレオタイプを排除するカリキュラム改革や教員トレーニング、科学技術教育や訓練への平等なアクセスのための対策など、重要な問題が含まれていた。1970年代のWID(開発における女性)の考え方から1980年代になって提唱され始めたGAD(ジェンダーと開発)の考え方も反映する内容となった1
 さらに、1995年の第4回世界女性会議(北京)では、「ナイロビ将来戦略」の実施を促進するために、女性のエンパワーメントに向けたアジェンダとして「行動綱領」が採択された。「行動綱領」では、1990年に開催された「万人のための教育に関する世界会議」と「世界子どもサミット」の成果が反映され、女子が特に重要なグループであることがこれまでよりも明示的に認識され、初等教育への普遍的かつ平等なアクセスを保障することなど初期の教育に対してジェンダーに配慮した行動が提示された。
 1990年の「万人のための教育に関する世界宣言」は「最も緊急の優先問題は、女子と女性に対して教育へのアクセスを保障し、その質を改善すること、そして彼女たちの積極的な参加に対するあらゆる障害を排除することである。教育における全てのジェンダー・ステレオタイプは撤廃されるべきである。」と明言している(第3条3項)。そして、2000年の世界教育フォーラムで採択された「ダカール行動の枠組」でも、同年の国連総会で採択された「国連ミレニアム宣言」でも、教育のジェンダー平等の達成は優先課題として再確認されたのである。

3.理論面からの考察:開発における女子教育の役割

 教育における不平等は、女子の権利の侵害であるだけでなく社会経済発展の重大な障壁 であるということが、様々な調査研究によって示されてきた。より最近ではWorld Bank (2001)が、女性とその家族の福祉(well-being)や健康に対して、さらに国の生産性や経済成長に対してジェンダーの不平等性がどれほど障壁となっているかを提示している。
 女性が字を読めず教育程度も低いと、女性にとっても社会にとっても収入や生産性が損なわれることになる。女性にとっての教育からの私的収益率(学校教育期間が1年増すことに対する賃金上昇の割合)は、一般的に男性の教育収益率と少なくとも同程度に高いという調査結果が優勢である2。但し、これは女性が同じ年数の教育を受けた男性よりも収入が高いということを意味しない。農村経済においても、女性の教育水準が低いと、農業技術の採用度や習得度を低める要因となり、生産性への長期的な悪影響を及ぼす可能性がある。
 最貧国では出生率が高いことによって子供たちに対する貧困の弊害がさらに悪化し得る。その出生率の減少は女性教育の改善とそれに伴う女性の自律性の上昇の結果であるという考え方を数多くの実証研究は支持してきた。母親の学校教育程度が低いと、育児に悪影響し、乳幼児死亡率と栄養不良率が高まるとも考えられてきた。母親の教育水準は子供の教育成果にも強く関連している。より良い教育をより長く受けた母親の子供のほうが、家庭で学習する時間がより長かったり、効率的な学び方を習ったり、手本を示される機会により多く恵まれることが示されてきている。女子の教育を制限することは、将来世代における教育水準を停滞させ、生産的な労働力となって貧困を削減する可能性が少なくなることを意味する。

4.最近の議論・論点

(1)ミレニアム開発目標を達成することに失敗するリスク
 女性の教育水準は、かなり改善されてきた。国連が定めたジェンダー平等のモニタリング指標(初等・中等・高等教育の各段階における男子生徒に対する女子生徒の割合と、男性識字率に対する女性識字率の割合で1により近いほど平等)に着目しても、開発途上地域の平均は過去10年間に改善が見られる(UN 2003)。
 しかし、これまでの変化の速度を基にしたUNESCO(2003)の予測によると、128カ国中40%以上にあたる54カ国は、2015年までに初等、中等教育のどちらか、または初等と中等教育との両方でジェンダー格差の解消に失敗するリスクに直面している。特に、サハラ以南アフリカ、南アジアと一部のアラブ地域で深刻である。国内ではジェンダー格差は富裕層よりも貧困層において、都市よりも農村において大きい傾向がある。ジェンダー格差の解消を達成することに失敗するリスクの高い国や地方に、ターゲットを絞ったアプローチが必要とされている。

(2)教育のジェンダー格差の解消とジェンダー平等の達成との違い
 教育のジェンダー格差の解消は、同年齢にある女子と男子が同じ割合で教育制度に参加することを意味する。一方、完全なジェンダー平等とは、より複雑な概念であり、女子も男子も同じように就学する機会を与えられ、ステレオタイプの影響のない教授法やカリキュラム、およびジェンダーによる偏見の影響を受けない進路指導が行われることを意味する。それはまた、教育の結果の平等、すなわち学習達成度や学歴・資格、さらには、同等な資格や経験を有する者に対する職業機会と報酬が平等であることを含意する(UNESCO [2003])。
 教育の低段階における女子と男子の就学の格差を解消するだけでは、女性と男性のどちらもエンパワーしない状況になる可能性がある。事実、教育よりも、広義のジェンダー平等や女性のエンパワーメントを達成する見通しはさらによくない。これは教育への女性の参加が増加しているにもかかわらず、ジェンダーの役割に関する社会の見解がほとんど変わらず、より一般的な権利や資源の配分において女性が不利であり続けていることを示唆している。
 一方で、社会規範と慣行が、女性の役割を家庭内に限定したり、育児や家事労働を十分に評価しなかったり、父系原則を重んじる社会では男子優先主義と女子への差別観によって、女子の就学と継続をより妨げている。したがって、教育のジェンダー格差の解消をより達成するためにも、女性への偏見に対応する広範な法制度改革(特に家族法や財産法に関して)を政府と市民社会が協力して行う必要がある。

(3)女子特有のニーズへのイノベイティブな対応と留意点
 教育分野の資源を女子に特有なニーズに対応するよう配分するため、政府は、次のような点を考慮した戦略をとる必要がある。(1)女子の通学に伴う直接費用および機会費用を減らし継続的に通学するインセンティブを与える、(2)女子にとって利用しやすい学校環境にする、(3) 女子の学習意欲が向上し、学校はジェンダーによる偏見と差別を徐々に弱める場とする、(4) 結婚や妊娠の後でも教育を受けることができる機会を設ける。
 近年は特に、両親やコミュニティの意見を積極的に反映し、両親とコミュニティと学校とが共に問題を解決していく学校経営体制(コミュニティ学校など)が注目されている。但し、地方や学校への強度の分権化は、社会によっては資金不足や慣習のため、教育機会と教育内容のジェンダー不平等が助長される懸念があり、注意すべきである。また、女子の学校への出席に伴う奨学金や補助金は、学校教育の需要側の制約条件に直接介入する方法として注目されているが、行政とコミュニティの実施能力、腐敗の防止や持続性についても注意深い検討が必要である。

5.主要援助機関・ドナーの政策スタンス

 国際機関や二国間援助機関の多くは、国際的な公約(第1節参照)を実行すべく教育やジェンダー平等を主な開発目標とする政策綱領を発表してきた。OECD/DACは、1996年の「新開発戦略」において女性のエンパワーメントを目標とし、そのために初等・中等教育における男女格差の解消を掲げている。その後発表されたガイドラインや政策綱領でも、ジェンダー平等のためのカリキュラムや教材の開発まで含めた包括的な支援の必要性を記している。DACのメンバーでは、特にイギリスやオランダが女子教育への支援を鮮明にしている。
 世界銀行は、教育セクター戦略(1999)で特に基礎教育における女子教育をグローバルな優先課題とし、ジェンダー戦略(2002)でも女子教育の重要性が明示されている。実際の支援が女子教育の奨励や教科書のジェンダーバイアスを取り除くことに貢献しているかどうかといった評価も行われている。アジア開発銀行も教育セクターの政策文書(2002)で、貧困層、特に女子と女性の基礎教育へのアクセスを増加することを優先課題としている。
 UNICEFは女子教育を優先課題と明確に位置付け、"25 by 2005"というイニシアティブを立ち上げ、2005年までに初等および中等教育におけるジェンダー格差の解消を達成することに失敗するリスクが高い25カ国に対する支援の強化を目指している。『世界子供白書2004』でも女子・教育・開発がテーマとなっている。UNESCOによる「万人のための教育モニタリング報告2003/04」もジェンダー平等がテーマとされている。

6.日本の諸機関の動向

 日本政府は、2003年の政府開発援助大綱において、その基本方針である「公平性の確保」について特に男女平等参画(ジェンダー平等)の視点を重視し、女性の開発への参加及び開発からの受益の確保について十分配慮し、女性の地位向上に一層取り組むことを明記している。また重点課題の「貧困削減」のために教育分野における協力を重視することも記している。
 しかし、これまでの実績は乏しい。JICAが2002年に発表した「開発課題に対する効果的アプローチ:基礎教育」では、教育の格差(ジェンダーや地域間の格差)是正に関するJICAの協力実績は少なく、今後は、既存の教育協力事業により積極的にジェンダー配慮を取り込んでいくことから着手すると提言されている。翌年に発表された「開発課題に対する効果的アプローチ:高等教育」でも、開発目標である教育活動の改善の中で、女性の高等教育の就学の拡大を図ること、女性のニーズに応じた高等教育機関の多様化や進路支援の必要性が提示されている。
 JBICは、「海外経済協力業務実施方針」(2002-2005)において重点分野の一つとして「人材育成への支援」を挙げ、全ての教育段階を含め広く人材育成を支援するとしている。業務運営にあたって配慮すべき事項に、女性も社会的弱者として含まれている。しかし、教育支援におけるジェンダー格差及び不平等への対応の必要性は明確にはされていない。

7.重要文献

黒田一雄(2003)「女子教育」国際協力機構『日本の教育経験:途上国の教育開発を考える』。
国際協力事業団 (2002)『課題別指針ジェンダー主流化WID』。
King, E. M. & Hill, M. A. (eds.) (1993), Women's Education in Developing Countries: Barriers, Benefits, and Policies, The Johns Hopkins University Press.
Leach, F. (2000), "Gender Implications of Development Agency Policies on Education and Training," International Journal of Educational Development, 20(4), pp.333-347.
Stromquist, N. P. (ed.) (1998), Women in the Third World. Garland.
UN (2003),"Implementation of the United Nations Millennium Declaration" Report of the Secretary-General.
UN Millennium Project Task Force (2004),"Interim Report on Gender Equality."
UNESCO (2003), Education For All Global Monitoring Report 2003/4: Gender and Education for All The Leap to Equality.
UNICEF (2003), The State of the World's Children 2004: Girls, Education and Development. (『世界子供白書2004』)
UNIFEM (2002), Progress of the World's Women.
World Bank (2001), Engendering Development: Through Gender Equality in Rights, Resources, and Voice, Oxford University Press.

8.関連リンク

  1. 女子教育のためのDFID・世界銀行・UNICEFのパートナーシップ
    http://www.girlseducation.org/

  2. UNICEF の女子教育イニシアティブ
    http://www.unicef.org/girlseducation/

  3. USAIDの基礎教育におけるジェンダー平等に関する活動
    http://www.usaid.gov/our_work/cross-cutting_programs/wid/activities/educationgirlswomen_rc.htm

  4. アフリカの女子と女性の教育を支援するFAWE
    http://www.fawe.org/

  5. "Development Gateway"のジェンダーサイトから特に教育の情報を選べる
    http://topics.developmentgateway.org/gender

  6. 国連関係機関の協力による"Women Watch"
    http://www.un.org/womenwatch/

  7. お茶の水女子大学開発途上国女子教育協力センター
    http://www.ocha.ac.jp/ktjkkc/

1 WIDやGADの定義はDAKISの「ジェンダーと開発」サイトを参照。
http://dakis.fasid.or.jp/report/information/gender.html
2 例えばSchultz, T.P (1993) "Returns to Women's Schooling." In Elizabeth M. King and M. Anne Hill, eds., Women's Education in Developing Countries: Barriers, Benefits and Policy. Baltimore, Md.: The Johns Hopkins University Press; Psacharopoulos, G. (1994) "Returns to Investment in Education: A Global Update." World Development, Vol.22, No.9, pp.1325-2343.を参照。


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