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ガバナンス
国際基督教大学準教授
近藤正規

1.ガバナンスの定義と解釈

  「ガバナンス」という言葉の専門的な定義は必ずしも一定ではない。その理由の一つには、ガバナンスの概念には政治ガバナンスと経済ガバナンスが含まれ、それらをどの程度重視するかということによって、解釈の相違が生まれていることがある。ここでいう政治ガバナンスには、基本的に民主主義の構成要素、すなわち三権分立、投票の自由、法支配の徹底、メディアの自由、人権の尊重といったさまざまな要素が含まれ、一方で、経済ガバナンスには、財政収支、財政支出の内訳、税収の内訳、関税率、公企業の実績、不良債権の規模、地方分権化、行政の効率、透明性と汚職の程度といった要素が含まれる。特に多国間援助機関が政治問題にかかわることが許容されるのか、或いは二国間援助機関であっても被援助国側の内政問題にどこまで干渉できるのか1、民主化の推進を強制してもよいのかといった視点から、ガバナンスの解釈に相違が生じてくる。
 各ドナーのガバナンスの解釈について大まかに述べると、上記の政治ガバナンスを除いてより狭い意味でガバナンスを解釈しているのが世銀などの国際金融機関2、政治ガバナンスも含めてもう少し広い意味でとらえているのが二国間援助機関、そしてその中間にあるのが国連開発計画(UNDP)などの国連機関であると言える。さらに、二国間援助機関の中でも米国はガバナンスの概念を民主化の一部として狭義にとっているのに対し、英国は貧困撲滅のための市民参加も含めたより広い意味でとらえている。

2.ガバナンス重視の背景

 「グッド・ガバナンス」という言葉が世銀で初めて公式に用いられたのは、1989年のアフリカ向け援助においてであった。そこで世銀が用いたガバナンスという言葉は、それまでの数年間にあった米国と北欧を中心とした諸国の援助に関する議論の妥協的産物であった。つまり、途上国の民主化推進を第一の柱に掲げる米国は、それに反対する北欧諸国に対する配慮として民主化という言葉を直接使うことを断念しつつ、その代わりに世界的にガバナンスという表現を一般化させることによって、開発援助を通した途上国の民主化推進を国際的な共通認識とすることを狙ったのである。この援助に関して異なる理念をもつ先進国間の妥協の産物として生まれた「ガバナンス」という言葉は、1990年代以降、以下のような国際的背景のものとで、開発援助におけるキー・ワードとして広がっていくこととなった。
  その背景にある第一の要因は、いうまでもなく冷戦の終結である。冷戦時には米国の共産主義封じ込めの目的で、腐敗した独裁政権であっても必要であれば援助は行われたのであるが、冷戦の崩壊によりその前提が崩れ、新しい価値判断の基準として、民主主義やガバナンスが選ばれた。
  第二に、1980年代から90年代にかけて中南米や東南アジア諸国で民主化が進展したことがある。特に1997年のアジア経済危機を通じて、開発独裁は長期的には持続可能でないという考えが一般的になり、民主化の重要性に対する国際的な認識は、一層共有されるようになった。
  第三に、これまでの国際開発援助を振り返って、良い制度の重要性が明らかになったことがあげられる。1980年代以降、IMF・世銀の構造調整プログラムに代表される市場経済自由化が推進されたが、それが特にアフリカ諸国を中心として十分な成果を生んでいないことが明らかになってきた。そうした中で世銀は援助の評価についての研究を進め、1998年のAssessing Aid (和訳『有効な援助』)においては、援助の有効性は良い政策と良い制度によりもたらされるという研究結果を発表した3
 第四に、ドナー自身の反省もある。市民社会やNGOの影響力が増すとともに、援助の受け手て側だけでなく、ドナーの責任も問われるようになってきた。インドネシアでは、世銀の内部資料が新聞に取り上げられ、援助の2、3割が闇に流れていたことが公になり、ドナーに対してNGO、市民社会が責任を追及するという事態が発生し、旧ザイールでは腐敗した独裁者への援助の結果としての負債に対して、新しい政権に返済義務があるのかという裁判がNGOによって起こされた。
  第五に、2001年9.11米国同時多発テロ事件とそれに続く国際情勢の変化の影響も大きい。このタリバーンによるテロが貧困の結果であるかどうかについては意見が分かれるところであるが、ガバナンスの脆弱な国家がテロの温床になるという論理は一様に認められており、これが特に米国を中心とする先進国のガバナンス支援に大きな影響を与えることとなっている。こうした背景のもとで、2002年のモンテレー会議の前にブッシュ大統領は米国の開発援助を今後3年間で50億ドル増額することを発表し、それにはコンディショナリティを付けて、グッド・ガバナンスを要求することを前提とし、それが貧困撲滅とテロ対策にもなりうるとした。

3.世界銀行の支援動向

(1)ガバナンス評価
 世銀は、途上国のガバナンス改善支援の一環として、ガバナンス改善と汚職の構造的な原因の究明に対する政策支援と調査(Analytic and Advisory Activities: AAA)を1999年より国別に実施している。このAAAをもとに途上国のガバナンス改善の程度を厳しくモニターして、資金配分にもそれを考慮していくというのが、世銀の姿勢である。
  世銀におけるIDAの国別資金配分は、その国の貧困状況も含めたマクロ指標、ガバナンスの程度、これまでの世銀の案件の進捗状況をもとにして決定される。ガバナンスは全体の評価の二割を占めており、そのガバナンスのレーティングは、上記の国別調査などをもとにした世銀スタッフの判断に基づいている。

(2)財政支援
 ガバナンスを国別資金配分の決定において考慮するだけでなく、いわゆる構造調整融資を被援助国のガバナンス改善をマクロの立場から支援していくことも、世銀の重要な活動である。(被援助国のガバナンスを構造調整融資によるマクロの立場から支援していくことも、世銀の重要な活動である。)この構造調整融資は、外貨危機やハイパー・インフレなどの非常事態に通貨切り下げなどのマクロ安定化政策と共に行われる通常の構造調整とは異なり、行政改革を主目的としており、とりわけその主眼は財政支出に向けられている。このガバナンス支援融資は、緊急時に行われる通常の構造調整融資と比べて、資金を受け取っても改革を行わないことが起こりやすいため、融資をこれまでよりも細かく4-5回に分けて行い、その間に相手国政府の動向に常に注意を払い、状況次第ではプログラムを停止することも必要であるり、そのため、に現地スタッフの数を増やすことも要求される。

(3)汚職撲滅
 ガバナンスの分野における世銀の重点項目の一つに、汚職撲滅がある。まず、世銀は内部でのプロジェクトにおける調達、財務管理、監査の過程で生じる不正・汚職を防ぐため、1997年に内部に専門委員会(Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)を設置し、1999年度には全職員に対し反汚職アクション・プランを実施した。汚職撲滅を推進する国の支援としては、現在30カ国以上がその対象になっており、特にアフリカを重視している。

(4)司法制度の改善
 汚職撲滅に続く世銀の主要な技術協力の分野に、司法制度の改善がある。バングラデシュやエルサルバドル、タイ、ウガンダにおいては、司法手続きの簡素化と社会的規範に基づく代替的紛争解決制度の構築支援案件が行われており、また、ペルーにおいては、司法制度の改善に間接的に関連して、オンブズマン制度の構築支援も行われている。

(5)ガバナンス指標作成の試み
  世銀研究所(WBI)のDaniel Kaufmannを始めとする研究グループは、1999年に「ガバナンスの重要性(Governance Matters)」と「ガバナンス指標の統合(Aggregating Governance Indicators)」という2つのペーパーを発表した。そこではさまざまな既存の情報源から収集した300を超えるガバナンスの指標をもとに、6つのガバナンスの概念(説明責任、政治的安定性、政府の効率、規制の程度、法の支配、汚職)に対応する指標がまとめられ、これらの6つの指標と所得、教育、保健などの各指標との相関関係が、クロス・カントリー・データをもとに検証された。しかし、この指標は、政治的な受容性、データの継続的な収集可能性などの点で実際のオペレーションの現場で使用しにくいことが問題として挙げられており、これに変わる新しい指標の開発が世銀とOECDのDACの研究者によって進められている。

4.UNDPの支援動向

(1)ガバナンスに対する考え方と実施体制
 UNDPにとって、ガバナンス支援はその最重点分野であるといっても過言ではない。最近策定されたUNDPの6つの重点分野においてもその最初にあげられている。UNDPは1995年にガバナンスの枠組みを一貫して把握するため、まずその内部にManagement Development and Governance Division (MDGD)を設置した。このMDGDの活動目的は、ガバナンス支援プログラムを開発し、特に汚職撲滅についての支援を強化して、さらに他の国連機関や二国間援助機関に対してUNDPのガバナンス部門の実質的な役割を向上させることである。また、ガバナンス分野の政策提言や技術支援の要請の増加に対応したテーマ別信託基金(Thematic Trust Fund: TTF)を設立し、更に、ガバナンスの国連システムにおける位置付け強化を目的とし、2002年5月に民主的ガバナンスセンターをオスロに設置した4

(2)民主化支援
  これまでUNDPは、政党・市民社会の能力強化、立法における女性のエンパワーメント、議員・議会職員の育成支援など、民主化支援を積極的に行ってきた。第一に、立法制度の強化に関してUNDPは、東ティモールの新憲法制定支援、ニジェールの議員と市民社会のメディアを通じた伝達向上、ペルーの議会コンピュータ・システム構築、タジキスタンの議会を支援と政党の代表の教育、カンボジア、ラオス、ベトナムの政府職員や代表に対する立法プロセスへのアドバイス提供、モンゴルの反腐敗法草案支援や新労働法制定を行った。
  第二に選挙支援の分野において、独立した選挙管理体制の確立、選挙計画・監視・予算編成などを図っている。第三に、情報へのアクセス向上を目指して、言論の自由を確保するメカニズムの確立、メディア教育と専門性の向上、メディアにおける女性の役割強化などを支援している。第四に司法の分野においては、改革のための市民の意識向上、司法制度の簡素化、貧困層の司法アクセス強化、司法に関する情報の流布、紛争解決のための代替的インフォーマル・メカニズム構築、人権支援、国際人権基準の推進などを支援している。

(3)分権化推進の事例
 近年、UNDPにおける分権化支援のプロジェクトが増加しており、それぞれの分野で分権化政策にかかわる技術支援、地方選挙支援や地方公務員の能力開発、政策決定・開発プロセスへのNGOの参加促進と透明性拡大、市民の能力開発や女性の参加を伴う貧困層の組織化支援といった各種案件が実施されている。また、貧困削減のための手段として参加型プロセスを通じた行政改革支援も実施されている。さらにUNDPは、地方政府と低所得者、民間部門、NGOが都市貧困問題、生活向上に取り組むために相互の対話を促進するメカニズムであるLocal Initiative Facility for Urban Environment (LIFE)というスキームによる支援も行っており、5万ドル程度の小規模支援を直接NGOに対して供与して、政策対話の促進を目指している。

(4)UNDPと他ドナーの相違
 UNDPのガバナンス支援における世銀やADB、或いは米国や英国などとの大きな違いは、被援助国のガバナンスの程度を国別(或いは一国における州別)の資金配分に積極的に結び付けていないことである。UNDPは圧倒的な資金力を持つ世銀やADBなどと比べてその規模の小ささから、資金配分によってガバナンス改善に影響を与えるということではなく、貧困地域を幾つか選んで、そこにパイロット・プロジェクトを行い、その成功例をもって政策へ影響を与え、その後の発展へつなげる布石とすることを目標としている。したがって、いわゆるプア・パフォーマーをどうするかという議論において、世銀を始めとして英国さえ含めた主要ドナーがガバナンスが悪く貧困比率も高いプア・パフォーマーを避けつつある中、UNDPの役割は今後さらに無視できないものとなってくるであろう。

5.米国 (USAID)

(1)ガバナンスに対する考え方
  最近の開発援助におけるガバナンス重視の背景には、米国の影響が大きく存在する。そもそも米国は、冷戦時より民主化推進による資本主義陣営の拡大を援助目的としていたが、冒頭に記したように、1980年代から90年代にかけての国際情勢の変化も大きく影響した。
  2001年の9.11テロ事件をきっかけに、民主化とガバナンス改善の重要性はさらに強調されるようになり、同じ年に米国の戦略目標は、法の支配の確立、選挙を始めとする政治プロセス、市民社会、ガバナンス支援の4つに再編された。その中で特に強調されたことは、民主的制度、自由で開かれた市場、情報を持ち教育を受けた人々、力強い市民社会、そして多党制や国民参加、平和的紛争解決を促進する国家と社会とのより良い関係の存在や構築が持続的な民主主義を支えるという点であり、援助する途上国の条件の第一にグッド・ガバナンスがあげられた5。ガバナンスの重要性は2002年9月20日に発表された「米国国家安全保障戦略(ブッシュ・ドクトリン)}によっても強調され、そこでは民主化に向けて改革を行った国を重点支援することを前提に、MCA(Millennium Challenge Account)の新設と援助の50%増が提案された。

(2)実施体制
  USAIDがその内部にガバナンスを専門に扱う組織を最初に設置したのは1994年のことである。この民主主義・ガバナンス・センター(Center for Democracy and Governance)は、2001年11月には民主主義・ガバナンス室(Office of Democracy and Governance)に改組された。この部署の役割は、USAIDのフィールド・ミッションや現地事務所を補佐し、技術的な指導力を発揮し、効果的かつ戦略的にプログラムを実施・管理することであり、米国務省や国家安全保障会議(National Security Council: NSC)とも密接に関係を持ちながら活動をしている。
  USAIDの民主主義・ガバナンス室は、NGOや企業との協調関係・提携を重視している。経験豊富な組織との協調関係を築くことによって、USAIDが行う支援をより迅速に効果的に出来るようにしているのである。二国間援助の実に3割以上がこうした民間組織、NGOを通して実施されているのは米国の援助の大きな特徴と言ってよく、国際機関とのパートナーシップも重視している。

(3)民主化支援の内容
  米国の民主化支援は、法支配の確立、選挙支援、市民社会の強化、ガバナンス改善の4本柱からなっている6。ここで注意したいのは、他のいくつかのドナーが「ガバナンス支援」の一つとして「民主化」を目標に掲げているのに対して、米国はあくまで途上国の民主化を進めるための一目標としてガバナンスを目標に挙げていることである。 
 第一の法の支配確立支援として、USAIDは司法改革支援、司法手続きの改善、市民の司法へのアクセス権の確立の3点に焦点を当てている。この法の支配の支援活動は、市場経済の発展のために契約や私有財産を重んじる商業規範が重要とされるだけに、USAIDが行う他の支援においても非常に重要視されている。
  第二の選挙支援は、支援国の体制によって活動内容が異なっている。紛争後で国家が正当な政治基盤を築いていない国では、まず短期的な取組みを迅速に実施するために、選挙管理委員、投票立会人、選挙監視団の育成、選挙教育支援が早急に行われる。一方、選挙は行われているものの、それを運営する能力が脆弱な国や、政党の組織基盤が弱く、投票や選挙に対する情報や理解が不足している国家に対しては、選挙の計画・実施や政党基盤の改善への支援、投票教育などにより、能力強化を目指した支援が行われている。
  第三の市民社会の強化は、民主的基盤が弱い国で特に重要視されており、USAIDは、女性団体、市民教育団体、労働組合、メディア、弁護士協会、環境活動団体、人権監視団体といった独立した市民団体を支援している。中でもUSAIDが特に力を入れているのは、労働組合の組織化支援である。
  第四の柱であるグッド・ガバナンスにおけるUSAIDの活動には、公的部門の説明責任、透明性、効率性の推進等があり、これらを高めるため、政府の誠実性、民主的分権化、立法上の強化、文民と軍との関係、効率的な政策執行の5点に焦点を当てて、支援活動を行っている。

(4)戦略的評価の実施
  結果重視の開発援助を徹底するため、米国はガバナンスの分野における戦略的評価を行っている。この戦略評価においてUSAIDは、政治的制度、重要なアクター、機構・制度、履行の4つの段階から同時に調査を行っている。
  第一段階では、政治体制に対する世論の基本的合意、基本的人権の法律に基づく保障、選挙や市場での公正な競争、政治・社会・経済的参加の確保、官民双方の透明性と説明責任、効率性の確保といった5つの分野を中心に調査を行っている。
  第二段階の重要なアクターの調査では、民主改革の支持者、反対者を定める作業がなされる。この調査の目的は、どのアクターが改革に反対しているのか、どういった政治的、経済的、社会的利益が彼らに民主化への反対をさせているのか把握することにある。
  第三段階では、政治は抽象的なものではなく、機構・制度が公式かつ非公式なルールによって政治を構造し、主体の行動にインセンティブを与えたり、制約を加えたりするという認識から、重要となる機構・制度を認定する。USAIDは民主化への改革において、特に法律制度、選挙を含む競争的制度、立法制度を含むガバナンス、そして市民社会の4つの機構・制度が重要であると考えている。
 第四段階は、履行についてである。そもそも戦略的評価枠組みは、開発計画のために政治的分析を支援する手段である。そのためこの分析は日常の出来事から事実を認識する必要があり、それは外部コンサルタントによって、被援助国政府と協調の上行われる。

6.英国 (DFID)

(1)ガバナンスに対する考え方
 英国にとってガバナンスは、貧困削減と環境、水資源管理、保健、初等教育、成長と平等と安全保障、都市の貧困削減、女性開発、貧困層の人権と並ぶ9つの重点分野の一つである。ガバナンスの分野におけるDFIDの援助の特徴は、DACでの対話などによりドナー・コミュニティーにガバナンスの重要性を認識させるべく、影響を及ぼすことを目標にしているところにある。そしてDFIDは、貧困撲滅のための包括的開発フレームワークと同じような新たなメカニズムをガバナンスの分野でも構築する必要があることを提唱している。
  グッド・ガバナンスの重点分野として、DFIDは全ての人への平等機会を与える政治的システムの運用、成長促進するための経済の安定、貧困層に対する政策実施と公的資源配分の配慮、公正で普遍的な基本的サービスの保障、司法制度へのアクセスの確保、紛争へ発展する前に異なる共同体が問題を解決できる安全保障の枠組み、透明性が高く腐敗のない政府制度の7つの分野をあげている。

(2)実施体制
  DFIDのガバナンスを取扱う部局は、地域局とは異なりアドバイザリー・グループとして設置されている。そしてそのガバナンス局は、教育、健康・人口、インフラ・都市開発、社会開発局と並列に設置されている。DFIDの現地事務所には数多くの政策アドバイザーが派遣されているが、特にガバナンスの分野では現地の事情を知ることが重要であるため、その面もDFIDは優位性を持っている。
 このようなガバナンス局を中心に活動を行っているDFIDの実施体制のもう一つの特徴は、その一元性にある。英国政府の方針として、援助国と被援助国、或いは官民のパートナーシップ構築を掲げている。この政府の政策が一貫性を保ち、環境、貿易、投資、農業政策と持続的な開発目的が整合することを目指し、政府内においてはDFIDが援助政策の立案から実施まで一元的に取扱っている。

(3)構造調整支援
 他ドナーを巻き込んで途上国のガバナンスを改善していこうというDFIDの姿勢は、世銀やADBも行っている構造調整支援についても同様である。ここで大きな問題となるのは、ガバナンスが悪くかつ貧困比率の高い、いわゆる「プア・パフォーマー」をどうするかという課題である。ガバナンスの良い国に対して援助を増加するということと、貧困撲滅を援助の第一目標とするという2つの潮流は、ガバナンスのレベルと所得水準の間に負の相関関係があることを考えれば、相互矛盾するように思われる。
 これに対する英国DFIDの考え方はかなり明確で、ガバナンス指標が低くても政権に改革への強い意志と実行力が見られる場合には積極的に支援する、逆にガバナンス指標がそれほど低くなくても、改革への意欲が見られない政権がある国々には、援助を積極的に行わないというものである。政治的コミットメントのある国に対して最近よく行っている案件は、改革をコンディショナリティとした財政支援である。また、資金的に制限のあるDFIDが財政支援を効率的に行うために、世銀との協調も念頭に置いている。
  改革へのコミットメントがない政府に対して世銀やDFIDは、財政管理の改善のための技術協力案件を供与して、しばらく様子を見るということを行っており、またこういった問題のある諸国に対しては、政治的に優れた地方や省庁に優先的に支援を行うことにより、他の地域や省庁に対して影響を及ぼす試みが行われている。もう一つの方法として、地域の市民団体やNGOに対する直接支援が行うことがあるが、直接NGOを相手にする案件は必ずしもうまく行っていないことはDFIDも認めており、そのためこれを「次善(second best)の策」と考えている。

(4)汚職の撲滅
  汚職の撲滅も、DFIDにとって重要な課題である。この分野では第一に援助協調、第二にマネー・ロンダリングの防止などを目指した国際的な取組み、第三に英国内の汚職撲滅が重点項目に挙げられている。この分野で英国はオランダ政府と深い協調関係にある。また第三に関しては、英国政府は最近海外の政府に賄賂を支払った英国企業を有罪とする法律を定めた。英国政府はまた、2国間援助として司法の独立などを含めた政治ガバナンスの領域に踏み込むことに対して相手国から内政干渉として批判されることを避けるために、EUの援助の活用も行っており、EUに対してこの分野で10万ユーロを拠出している。

7.日本の諸機関の動向及びへの提言

 最後に、これらの他ドナーのガバナンス支援の動向をふまえて、日本への提言を行いたい。第一に、他の主要ドナーが1990年代後半にガバナンスに関する戦略ペーパーをまとめ、その態度を明らかにしているのに対して、日本政府全体としての対応は必ずしも明確なものとなっていない。例えば、JICAは1995年に「参加型開発と良い統治」という報告書を出して、そこで初めてガバナンスの問題を扱い、2002年にはさらにそれより進んだ形で「民主化支援のあり方(基礎研究)研究会報告書‐日本の民主化プログラムの策定に向けて」をまとめており、JBICにおいても同様の動きがある。最近の日本のODA大綱の見直しにおいても、ガバナンスの問題は活発に議論された。今後、この分野の一層の研究推進が期待される。
  第二に、日本は世銀や英国と同様にガバナンス改善をコンディショナリティとするような構造調整融資をすべきかという議論については、日本に経験が乏しく、人員も手薄である以上、厳しい条件をつけたガバナンス分野での構造調整融資を行うことは困難であり、その必要はないと筆者は考える。筆者はこれまで通りそれは必要ないであろうと考える。その理由はまず日本の援助自体に世銀などと違って、こういった厳しい条件をつけて構造調整融資を行う経験が乏しいことである。さらに、ガバナンスの分野での構造調整融資は現地での相手国政府のモニタリングが非常に重要となり、現地での人員が世銀やDFIDと比べて手薄である日本にとって、それは非常に困難である。
  第三に、それでは日本はこれまで通りのやり方で円借款を続けていけばよいのか、という点に関し一つ述べておきたいことては、世銀やADB、英国などとのガバナンス面における意見調整がの必要性である。国際的に見てガバナンスの良好でない、或いはより正確に言えばリーダーに改革へのコミットメントのない国の政府に対しては資金の融資量を減らすということで、他ドナーの合意が半ばなされている中で、資金的に規模の大きい日本の援助が、彼らの対応を無意味なものにしてしまうことは十分考えられるということである。こういったことについて、日本の援助が好ましいかどうかを議論することの必要性だけでなく、他ドナーに対して自らのスタンスを説明できるだけの対応を理論武装しておくことが、日本側でも必要であろう。
  第四にそれに関連して、これまでのような協調融資案件の発掘と実施といった形での援助協調だけでなく、上記のようなより被援助国の政治情勢やガバナンス的な観点から他ドナーと定期的に議論を行うことは、特に日本のプレゼンスの相対的に大きい国では必要である。また、さらに、世銀や英国のような現地スタッフが豊富にいて、現地の事情にも明るい他ドナーと定期的に打ち合わせを行うことによって、日本としても本当に支援すべきかどうかを見極めるためのヒントが得られるであろう。
  第五に、ガバナンス改善を目的とした無償援助や技術協力を日本政府とJICAはどのように行っていけばよいかという議論も、今後ますます重要になってくるであろう。本稿では特にUNDPを中心としてこの分野における事例を数多く紹介したが、これまで「人造り」を目標にして研修などを活発に行ってきた日本の援助が、個別の研修だけでなく財政管理などのより中枢ともいえる分野での技術援助に参入した現在、他のドナーとの比較、また日本のガバナンス支援の有効性などについても明らかにしていくことが必要であろう。また世銀やUNDPにおいて最近行われている数々の新しいプロジェクトから学べるものがあれば学び、さらに日本の成功例も彼らに対して発信していく必要があるであろう。

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2   多国間援助機関で、欧州復興開発銀行(EBRD)のみが「民主化推進」を定款に明記している。
3   World Bank (1998), Assessing Aid: What works, what doesn't, and why,Oxford University Press.
4   http://www.undp.org/governance/oslocentre.htm
5   White House (2002) Fact Sheet: a New Compact for Development. Presidential Action.
6   http://www.usaid.gov/democracy/

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