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地域・国

ラオス
2006年6月
FASID国際開発研究センター 宮本 千穂

(1)概要

ラオスは、インドシナ半島の中央に位置する内陸国で、日本の本州とほぼ同じ国土(23万7000平方キロ)に人口わずか560万人の小国である。公用語ラオ語以外の言語を話す少数民族が全人口の半数近くを占める多民族国家である。高度な経済発展が続くアジア地域では数少ない低開発国で、国連人間開発指標(2005年データ)で見て、177カ国中133番目の後発途上国(LDC)である。またASEANメンバー10カ国中もっとも発展が遅れた国の一つであり、貧困削減戦略ペーパー(PRSP)策定対象国でもある。

国家(社会経済)開発計画の最上位目標は、2020年までに後発途上国から脱却することであり、そのための開発課題として、基礎保健医療サービス・初等教育などの基礎的公共サービスの改善、農村地域開発、経済社会インフラの整備・活用などが挙げられている。これらはアフリカ諸国など他のLDC共通の開発課題である。内陸国で、国内道路交通網が未整備であるがゆえ、少数民族を中心に社会サービスが行き届いていないこと、均一の教育水準が満たされていないこと、また行政能力が不足しているといったラオスが抱える開発上の制約が、他のLDC共通の制約であることを考えれば、理解は難くない。

日本のラオスに対する国際協力は、青年海外協力隊派遣が開始された1965年以来の長い歴史を持つ。ラオスは日本にとって伝統的友好国である。日本は、ASEAN諸国とは貿易、直接投資、ODA供与を通じて、協力関係を強めてきた。ラオスがASEAN加盟を果たしてからは、対ラオス支援は、ASEAN全体の安全および繁栄に向け、域内の格差是正を目指した後発国の開発支援の一環として、位置づけられている。

(2)歴史的背景

ラオスは、ベトナムにおける社会主義革命の影響を強く受け、1975年に同じく社会主義国を樹立した。以降社会主義国家の一員として、旧ソ連の援助を受け、思想的にはベトナムからの影響を常に受けてきた。主要社会主義国における改革・開放のうねりを受け、また、グローバリズムの進展をにらみラオス自身も86年には市場経済化に踏み切った。80年代後半からロシアによる援助に代わり、世銀・IMFによる指導・融資が開始されたが、その一つの成果として、2003年9月、ラオス版PRSP『国家成長・貧困削減戦略』(National Growth and Poverty Eradication Strategy: NGPES)が暫定的に完成し、第8回円卓会合の場で公表された。

円卓会合はほぼ3年に一度の割合で開催され、そこではドナーとラオス政府の間におけるラオスの社会経済開発に関する政策対話が行われている。第1回から6回までジュネーブで開催された後、第7回会合以降は首都ビエンチャンで開催されている。NGPESは数年におよぶ政府・ドナー間の協議の内容を反映しており、ラオスの貧困削減に関連する全ての項目が網羅されている。

NGPESは151ページにおよぶ長文書で、3つの開発目標、10の優先事項、さらに8の優先プログラムが設定されている。当初指摘された問題点は、優先順位が不明確なこと、目標達成度の測り方が不明確なこと、目標のためのラオス政府としての予算配分が明らかでないなどであった。これを受け、ラオス政府としても、NGPESで掲げられている目標達成度をラオス政府支出分の報告も含めて、毎年モニタリングする会合を開催することを決定している。

(3)援助動向

下のグラフは2000年から2004年までの対ラオスODA額の推移を示したものである。2004年の実績値は2億6,960万ドルであり、GDP比で、10.7%に達している。DACメンバー国および多国間ドナーによる援助はそれぞれ65%、33%を占めている 1。ラオスはまた、DACに加盟していない中国、ベトナム、タイからも援助を受けている。社会主義国の援助政策には不明な部分が多くデータもほとんどないため、ここでは扱わない。タイについてはDACメンバー国とは異なる援助政策があるため、別に扱う。以下ではドナーはDACメンバー国および多国間ドナーを指すものとする。

ODA純受取額(ラオス) 2000-2004
出所: DAC(2006)

2003年の公表以来、NGPESは対ラオス援助政策の中心として位置づけられている。UNDPの呼びかけで、2004年3月から8分野(教育、保健、インフラ、マクロ経済・民間セクター、農業、ガバナンス、薬物対策、不発弾(Unexploded Ordinance: UXO)対策)の作業部会が設置され活動している。最近、これらの作業部会ではラオス政府関係者の参加が進められており、分野によっては政策対話がかなり進展している。当初の位置づけが、半期に一度開催のドナー会合(ラオス政府抜き)の分科会であったことからすると、大きな違いである。ラオス政府は、作業部会における自らのスタンスを決めかねている部分もあるが、分野別に複数のドナーと担当省庁関係者との政策対話が、必要に応じて適宜開催されるようになったことは特筆すべきである2。これまでのところ、ラオス側のイニシアティブはそれほど強くなく、ドナーのリードを許している状況であるが、少なくとも分野ごとのドナー間の情報交換、協調が進展していることは明らかである。

次に、今後のラオスの貧困削減、より広くは社会経済開発を左右する3分野における動きを概観する。

財政分野

財政分野では、世銀、EUが中心となって公共支出管理に関する支援が本格化している。従来の公共支出レビュー(Public Expenditure Review: PER)だけでなく、PRSC(Poverty Reduction Support Credit)、PRSO(Poverty Reduction Support Operation)が開始された背景には、ナムトゥン(Nam Teun: NT)2という巨大ダムプロジェクトがある。ラオスでは電力は鉱物と並ぶ重要な外貨獲得源であるが、NT2ダムによって完成後10年間は年3,000万ドル(名目、以下同)、11年目以降14年間は年1億1,000万ドルに達する収入がもたらされるという3。その収入が貧困削減に配分するための枠組み作りが世銀を中心として進められている。ラオスの公共支出管理はNT2による収入を貧困削減に配分しつつ、中長期的には財政強化を図ることを目的としている。ただし、具体的使途については明らかにされていない。

社会セクター(教育および保健分野)

貧困削減に直結する社会セクターでは、多くのドナーが活動している。セクター別作業部会において情報交換、意見交換が進展していることは一定の成果であるが、両分野とも所管省庁である、保健、教育両省が省として、政策マネジメント、援助全体の調整を行えているかというと問題がある。保健セクターについては、省としてのイニシアティブもあり、2006年6月より、日本の協力で「保健セクター事業調整能力強化プロジェクト」が開始される予定である。プロジェクトマネジメント、財務管理、情報管理の一元化を図り、省が保健セクターにおける開発援助全体の調整を行えるよう保健省全体の能力開発を目指している。

教育分野については、セクターワイドアプローチに関するフィージビリティ・スタディが行われ、現在教育省が導入の是非を検討している。他国で見られるような教育セクターに特化した財政支援の動きはまだ見られない。

民間セクター

グローバリゼーション化の進展と1986年の「新思考」政策の導入を機にラオスでも市場経済化が浸透しつつある。ラオスは97年にASEAN加盟を果たした。近年は来るべきAFTA(ASEAN自由貿易地域)発効、WTO加盟を前に、国内産業の国際競争力強化、民間セクターの活性化など取り組むべき課題が山積みである。IF(統合フレームワーク)は、LDCにおける貿易拡大の阻害要因克服を支援する貿易関連技術協力の枠組みで、ラオスはカンボジアとともに参加することが決定している。民間セクターの活性化は、公共部門(特に貧困削減対策に直結する教育・保健セクター)の取り組みに比べ、最優先課題として取り組まれていなかった。IFが動き始めたことで、新たな進展が見られることが期待される。第一段階の現状調査の結果、「観光」、「貿易促進」が優先テーマとして設定された。第二段階では具体的技術協力の内容が検討される予定である。

次に、ラオスにとって重要なパートナーであり、近年新興国として援助を開始したタイの援助動向を取り上げる。

タイによる援助動向

ラオスは共通の言語的背景から、タイとは民間レベルでの経済連携がもっとも進んでおり、タイ経済圏にあるといっても過言ではない。近年タイは近隣諸国に対する「援助政策」を打ち出し、ラオスに対しては、2002年に、ローン6,000万ドル、複数国にまたがる技術協力で442万ドル、複数国対象のローンで4,882万ドルを供与している4。これらの支援の中身は、橋梁やダムなどインフラ整備が大部分を占めている。便益がラオスだけでなく、タイにおよぶものが多く、ラオスへの支援を通じた自国の経済活動の活性化という観点が見られる。このようなタイの対ラオス援助政策は、日本などDACメンバー国の政策と必ずしも一致するものではなく、これまでのところタイは他ドナーとの協調には関わっていない。

タイに代表される新興国をいかにDAC諸国の援助政策に巻き込んでいくかは重要な課題であるといえよう。

(4)ラオス政府の動き

NGPES(ラオス版PRSP)が2005年に一応完成したことから、ラオス政府の次なる課題は、2006-2010年国家社会経済開発計画(第6次5ヵ年計画)を完成させることである。2006年1月円卓会合プロセス情報会合がされ、第6次5ヵ年計画ドラフトが公開された。その計画策定は計画投資委員会(CPI: Committee for Planning and Investment)計画局が担当している5。CPIは元々全てのドナーによるODA予算を管轄しており、ODA予算と開発計画の間で多少はつながりが確保されていた6。現在は中国、ベトナムからのODAはCPIが担当しているが、日本を含むそれ以外の国からのODAについては、担当する国際協力局(DIC: Department for International Development)の外務省への移管に伴い、外務省の管轄となっている。ラオス政府としては、援助の窓口であるDICを外務省に移管し、援助調整機能とともにODAの活用・管理についてイニシアティブを示したい考えである。さらにDICによるODAプロジェクトのモニタリング・評価機能の強化や評価基準の設定について、取り組みが行われる予定である。

 第6次5ヵ年計画はNGPESを統合しており、今後NGPESのフォローは、実質的には、第6次5ヵ年計画を所管しているCPI計画局が行うことになると考えられる。

(5)対ラオス援助に向けた課題およびラオスの状況に学ぶ貧困国支援の課題

ラオスはすでに多額の援助を受け取っているが、(3)で見たように貧困削減に関連して、公共財政支援PRSOや社会セクターにおける支援は今後とも増加すると予想される。と同時にグリーバリゼーションの深まりを反映し、貿易促進、民間セクター支援の動きも活発化すると見られる。ラオスで活動している多くのドナーは、ラオス政府の行政能力の限界をある程度認識しており、援助協調に向けて動き出した。一方で、旧社会主義国や新興国はドナー協調の輪に加わらず、自国の政策にのみ基づいてラオス支援を進めている。ラオス政府としては、援助協調を積極的にリードする姿勢を示している。しかしながら、ただでさえ人材不足のDICがODAの評価を含む管理機能を果たすことは難しいと考えられる。

以上のようなラオスの状況は、被援助国を取り巻く問題の縮図であり、重要なインプリケーションを引き出すことができる。それはラオスのNGPES策定過程から、援助を受ける低開発国の直面する問題についてである。これは被援助国というよりドナーに起因する問題である。すなわち、被援助国のオーナーシップの重要性を掲げながら、実際には援助コミュニティが自分たちの価値観に基づき援助戦略が推し進めており、被援助国はイニシアティブを発揮する余地がない、あるいは、援助コミュニティの意向に従わざるを得ないという現実である。いうまでもなく、ラオスの貧困削減政策は、ラオスの現状に即した形で政策が策定されることが重要である。

現実には、援助コミュニティの押し付けによって、新たにNGPESを策定させられたという側面も否定できない。もともとある5ヵ年計画に、NGPESの策定という任務が加えられたラオス政府の人的、時間的負担は計り知れない。ドナーは人的資源の限られる被援助国の現状を留意すべきである。すでに多大な援助の入っている国に対して、さらに援助を増やしても、行政能力が伴わなければ援助効率が下がることは経験則から知られている事実である。今のラオスの現状を見ると、援助効率が上がっていることはないと感じられる。外務省DICや財務省財政政策局など、援助窓口となっている省庁部局では、英語で意思疎通を図ることのできる有能なスタッフは、多くのドナーのカウンターパートとなっており、ドナー対応に忙殺されている。本来の担当業務をこなす時間が確保できているのか疑問である。

援助協調については、ラオスではまだ緒に着いたばかりなので、評価を下すのは時機尚早である。ただし、被援助国の行政負担を削減し、援助の効率的な実施のために行われる援助協調がラオスでそのように機能しているかというと必ずしもそうなっていない。多くのドナーに対応し、援助協調をリードしていくには、強力なリーダーシップとある程度の行政能力が必要である。ラオスの場合、人的資源が不足しており、援助協調が効果を発揮する条件がまだ満たされていないといえる。さらにいえば、援助協調に対応するための組織改編が、包括的開発計画策定の妨げとなっている可能性すらある。

人材不足は多くの被援助国に共通する問題である。多くの場合、援助協調の動きはドナー主導で進められるが、その際、ドナーとして心がけるべきことは、被援助国政府の負担が増さないようにすることである。援助協調で、協調しなければならないのは、他ならぬドナー同士である。外交的に協調はある程度進展していると評価できるが、今後は現場レベルでの協調あるいは調和化を進めるための各ドナーの努力が望まれる。

日本の対ラオス支援には、ASEAN地域内の格差是正を目指す後発国の開発支援、および移行国支援という側面があることは述べた。貿易、直接投資、ODA供与という3本柱による開発援助は、先進のASEANメンバーを含む東アジア諸国の"卒業"を後押しし、成功を収めてきた。しかしながら、ラオスを含む後発国は先発国にはない、行政能力の低さや制度の不備など多くの問題を抱えており、その対処が援助効果を高める上での最重要課題である。

国際援助潮流は押さえつつ、先に述べた問題点を提起していくことが重要である。短期的な成果を期待することは難しいが、他ドナーとも協力体制を敷きつつ、地道に人材育成に取り組んでいくことが望まれる。社会セクター(保健および教育分野)では多くのドナーが活動しているが、新たに始まる保健セクター事業調整能力強化プロジェクトでは、行政能力向上という日本の比較優位を生かした技術協力での成果が期待される。ラオスの保健セクターの行政機能を阻害しないで、他ドナーとの調整を進め、活動に巻き込んでいくことが大きな課題である。

(6)参考文献

天川直子・山田紀彦編(2005)『ラオス 一党支配体制化の市場経済化』アジア経済研究所

国際協力機構(JICA)ラオス事務所(2005) 「保健政策マネージメント強化プロジェクト事前予備調査結果最終報告」

下村恭民(2006)「日本の役割の再発見」、秋山孝允・笹岡雄一編 (2006) 『日本の開発援助の新しい展望を求めて』FASID開発援助動向シリーズ4 第2章

「対ラオス国別援助計画」骨子(2006)

西澤信善・古川久継・木内行雄編(2003)『ラオスの開発と国際協力』めこん


ADB (2005) Country Strategy and Program Update (2006-2008) Lao People's Democratic Republic.

----- Website
(http://www.adb.org/LaoPDR/default.asp).

Australian Government/AusAID (2005) Laos Australia Development Cooperation Program 2004-2010.

Committee for Planning and Investment (2006) Sixth National Socio Economic Development Plan (2006-2010) (Draft).

DAC (2006) Geographical Distribution of Financial Flows to Aid Recipients, OECD.

Government of the Lao PDR (2006) Annual Round Table Process Information Meeting 19 January 2006 Background Document.

Ministry of Foreign Affairs of Thailand and United Nations Country Team in Thailand (2005) Global Partnership for Development: Thailand's Contribution to Millennium Development Goal 8.

Roundtable Process Steering Committee (2004) National Growth and Poverty Eradication Strategy, Lao People's Democratic Republic.

World Bank (2005) Country Assistance Strategy for the Lao People's Democratic Republic, The World Bank
(http://www-wds.worldbank.org/external/default/
WDSContentServer/IW3P/IB/2005/03/31/000012009_
20050331095937/Rendered/PDF/317581init0pdf.pdf
).

----- (2006) Lao PDR Economic Monitor April 2006
(http://siteresources.worldbank.org/INTLAOPRD/Resources/
293582-1096519010070/2006april_lao_econ_monitor.pdf
).

----- Website
(http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/COUNTRIES/
EASTASIAPACIFICEXT/LAOPRDEXTN/0,,menuPK:293689~
pagePK:141159~piPK:141110~theSitePK:293684,00.html
).


1   そのうち日本は約26%を占めている。ラオスに対する日本の支援は、JICA事務所が開設された1995年以降本格化し、移行国における市場経済に関わる人材育成という観点からも進められている。
2   4年に一度の円卓会合の出席者は200人以上におよび、実務レベルの対話というよりは、外交マターという意味合いが大きかったことに比べると、大きな進歩といえる。
3   ラオスのGDPは2004年推計で25億ドルである(World Bank (2006))
4   Ministry of Foreign Affairs of Thailand and United Nations Country Team in Thailand (2005)
5   NGPESも元々はCPIが作成したが、現在は外務省の所管である。
6   開発計画を担う公共事業資金のうちラオス政府予算は3割に過ぎず(2002/03-2005/06年)、残りは援助資金(ODA)によるものである(Roundtable Process Steering Committee (2004) p.16)。よってODA予算と開発計画の整合性は不可欠であるが、DICの移管によってそれが失われた可能性がある。この問題については多くのドナーが指摘するところであるが、その原因がドナーによる援助協調の動きを受けたものであることを認識するドナーは少ない。

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