DAKIS課題別基礎情報>セクター:マイクロファイナンス
DAKIS
各種報告書
Journal Express
開発援助の新しい潮流:文献紹介
最新開発援助動向レポート
課題別基礎情報
セクター:
教育
保健・日本のNGOの活動
環境・水
農村開発
Research and Extension
平和構築
ジェンダー
産業政策
経済インフラ
貿易
Social Capital
ディスカッション・ペーパー
「国際開発援助動向研究会」会合の議事録
有益関連リンク集
ORCS(ODA調査研究協力システム)
"DAKIS"内の情報を検索します。
課題別基礎情報
セクター

マイクロファイナンス
アイシーネット株式会社
吉田秀美

1. 課題の定義

 マイクロファイナンスとは、貧困削減を目的とし、貧困層や低所得層、零細事業主を主たるターゲットとする、小口の貸付や貯蓄などの金融サービスである。担保となる資産を持たない貧困層に対して、グループ連帯保証制を導入して貸付を行ったりするなど、利用者の経済状況に合わせた様々な方法を取り入れている点が一般の銀行によるサービス方法と異なる。
 発展途上国の貧困層・低所得層にも、融資や貯蓄のニーズは存在する。しかし銀行を利用するには、担保がない、銀行へ行く時間や交通費がない、融資の申請に手間や金(賄賂など)がかかる、読み書きができない、利用額が小さいため銀行が顧客として相手にしないなど様々な障害がある。このため、高利貸しや質屋、仲買人、親類縁者などから借金をしたり、回転型貯蓄貸付講 (Rotating Savings and Credit Association: ROSCA)1に参加したり、貴金属や家畜の形で貯蓄をしたりと、インフォーマル金融に頼らざるを得ない。マイクロファイナンスは、インフォーマル金融を参考にしつつ、利用者に、より有利な条件でサービスを提供することを目指すものである。
 マイクロファイナンスは当初、貸付が重視されたため、マイクロクレジットが用語として幅広く使用された。しかし、数多くの実践事例から、気軽で安全な小口預金の需要が少なくないこと、貯蓄と連動した融資の返済率が高いこと、実施主体を金融機関として持続させていくためには外部資金依存を減らして預金を動員する必要性が高いことなどが認識され、「貸付」のみに限定しない「マイクロファイナンス」の用語が使用されるようになった。更に最近では、保険やリースといった一般の金融商品もマイクロファイナンス分野に取り入れようという動きもあり、その領域は拡大している。

2. 歴史的背景

 マイクロファイナンスの起源である「貧困層を対象とする信用貸付」の概念は、開発援助政策とともに変化してきた。
 1960年代には、「緑の革命」を推進するため政府主導の農業銀行を通じた低利の信用貸付が広く導入されたが、地域によっては小農や小作農はその恩恵を受けることがなかった。
 70年代に入ると、インフォーマルセクター(都市部の伝統的・労働集約的な製造業やサービス業、及び農村の非農業活動)を重視する傾向が高まり、同時に、それまでの経済成長至上主義から貧困問題へと援助機関が関心を移したことを背景として、小規模な農村信用貸付や都市部の零細自営業を支援する融資制度が実施されるようになった。今日、マイクロファイナンス実施機関としてよく知られるバングラデシュのグラミン銀行(Grameen Bank)やBRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)、インドのSEWA(Self Employed Womenユs Association)が活動を開始したのもこの時期である。
 80年代に入ると、構造調整政策の導入や金融自由化論の興隆を背景として、政府系農業信用プログラムに対する批判がなされ、低利融資の見直しや金利の自由化、預金動員などの改革が進められた。今日マイクロファイナンスの成功例と知られるようになったインドネシアのBRI(Bank Rakyat Indonesia、庶民銀行)のユニット・デサ(村落部門)も、この時期に支店ごとに独立採算制をとるなどの改革を行った。
 90年代に入ると、再び貧困問題が脚光を浴び、また社会開発サミットを始めとする様々な国際会議が開催されたのに伴って、各援助機関が貧困層や女性をターゲットとするマイクロファイナンスの支援を競って行うようになった。1997年にはワシントンで第1回マイクロクレジット・サミットが開催され、実施団体や援助機関の代表、各国の有力政治家などが参集して注目を集めた。しかし、こうした支援の盛り上がりによる急速な資金の流入に対して、実施能力が伴わず、融資の返済率が低迷する機関も少なくなかった。特に政府系プログラムや社会的公正を組織目標に掲げるNGOの場合、外部から得た資金をチャリティ的に配分することを重視し、債権回収に必ずしも熱心でなかった。また、地域の経済・社会的条件に合わせてスキームや融資の返済方法を設定すべきなのに、有名な成功例を形式的に(成功の要因を理解せずに)導入して、地域の実態にあわずに失敗した例もあとをたたない2。今日では、一時的なクレジット・プログラムではなく、貧困層が持続的に利用できる預金や貸付などの金融サービスを提供する機関や制度を確立することが重要だという認識が広く定着している。

3. 理論面からの考察

 マイクロファイナンスが貧困削減のツールとしての地位を確立した背景には、これまでの多くの実施機関の成果があるが、同時に様々な研究の進展とも関係している。

  まず、貧困についての理解の深まりがある。貧困層は単に所得が少ないだけでなく、保有資産が少ないために自然災害や経済変動などのショックの影響を受けて一層の貧困に陥りやすい(vulnerable)。緊急時にすぐに引き出せる貯蓄や手軽に借りられる融資制度があれば、当座の生活費を確保するために高利貸しに頼ったり、なけなしの資産を売り払わずにすむ(consumption smoothing: 消費平準化)。従って、マイクロファイナンスは貧困層にとって必要なインフラの一つであると理解されるようになった。

 また、途上国の金融市場への理解がある。すなわち、途上国においては、社会経済基盤や金融制度の未整備のため、貸し手が借り手に関する情報を把握しきれず、情報収集のコストが高くなる(情報の非対称性)。従って銀行はリスクの高い借り手と良質の借り手とを選別できないため、金利を引き上げることによって、良質の借り手が退出してリスクの高い借り手だけが残ってしまう可能性が高い(adverse selection)。しかも、借り手が高い収益率を期待してリスクの過度に高い事業にうつることになりやすい(モラルハザード)。
 こうした問題に対し、グラミン銀行が採用したグループ連帯保証制は、経済状況などの似た者同士が自主的にグループを形成する方法で、返済不履行のリスクの高い者を事前に排除した(peer screening)。また、グループ内のメンバーが返済しないと他の者が融資を得られない制度により、モニタリングや返済強制の機能をグループに持たせた(peer monitoring, pressure)。尚、今日では、必ずしもグループ連帯保証制に限らず、途上国の金融市場特有の問題に対処する様々な工夫が行われている。

 社会開発の側面からもマイクロファイナンスに対する評価がされている。特に女性のエンパワメントへの効果については、多くのケーススタディで指摘されている。実質的な数字でみた所得改善がごく僅かであったとしても、経済活動を通じて自信をつけ家庭内での発言力を増した、という事例は数多く報告されている。

4. 最近の議論・論点

 マイクロファイナンスの実施方法に関して様々な議論が展開されてきたが、既に決着しつつあるものについては、以下の通り要約できる。

  • 貸付だけでなく貯蓄も含めたサービスが、貧困層にとって必要である。
  • 補助金に依存した低利の融資よりも、運営コストや資金調達コストを反映した金利設定により財務的健全性を図ることが重要である。
  • 貧困層のみを対象とした貸付(Poverty lending approach)よりも、地域全体に門戸を開けて広範な資源(預金など)を動員しつつ、貧困層のニーズに対応した金融制度を構築すること(Financial system approach)が、持続的な制度作りのために有効である。
  • 「最貧困層」の状況改善は、マイクロファイナンスのみでは難しい。最貧困世帯では、働き手さえ事欠いたり、字が読めないためにマーケティングや技術習得に必要な情報が得られないといった問題があるからである。
  • 所得創出活動や零細事業育成に関しては、技術や経営に関する研修も合わせて行う方法(Integrated approach)と、金融サービスのみを行う方法(Minimalist approach)がある。両者の違いは、より貧困度の高い層を対象としてその底上げを図るか、或いはより幅広い層に低コストで金融サービスを適用するかといった方針の違いである。また、対象としている実施地域の経済状況の違いを反映しているともいえる。

 最近の新たな動きは以下の通りである。

  • 各援助機関は、持続的な金融制度構築を支援するため、マイクロファイナンス機関へ直接貸付資金を提供することよりも、金融機関その他NGO等の機関が積極的にサービスを展開できるような法的環境の整備を重視するようになった。
  • 各マイクロファイナンス実施機関の中には、保険やリース、送金業務など、一般の金融商品を取り込もうという動きが出ている。

5. 主要援助機関・ドナーの政策スタンス

 基本的なスタンスは、マイクロファイナンスの制度作り支援へと向かっている。
 世界銀行は、金融セクターの改革とマイクロファイナンス支援をリンクさせている。例えば、移行経済国で政策対話を通じて貸付金利の上限撤廃などの規制緩和を働きかけるなどして、財務的に健全な金融機関の育成などを行っている。融資方法も、直接マイクロファイナンス機関に融資をするのではなく、元請け機関となる金融機関を支援し、そこにマイクロファイナンス機関を選別、原資供与、監督させて、マイクロファイナンス機関同士の競争を通じた金融市場の育成を図るなどといった方向に向かっている。一方で、貧困削減プロジェクトにも取り組んでおり、ここではマルチセクターの村落開発プロジェクトの一環としてマイクロファイナンス支援にも取り組んでいる。
 アジア開発銀行も世界銀行との協調が多いが、農業セクターのSME(中小企業)支援、国営企業改革、組合支援などを重点分野としている。
 欧州復興開発銀行は、日本の拠出資金を使用して中欧や中央アジアの移行経済地域で原資供与を行っているが、各マイクロファイナンス機関へ直接的に技術支援を行っており、目覚しい成果をあげている点で注目に値する。
 技術協力を主とする国連開発計画や、米国援助庁、GTZなどもマイクロファイナンス機関の制度作りを積極的に支援している。支援内容は、NGOからマイクロファイナンス機関を育成したり国有銀行を商業化するもの、環境保全などをプロジェクト目標としつつ受益者の組織作りを重視して実施するもの、各国政府の金融監督機関に専門家を派遣してマイクロファイナンス育成に必要な法整備を支援するものなど、貸付の原資供与以外にも様々な形で持続的な制度作りの支援を行っている。

6. 日本の諸機関の動向

 日本の援助機関も貧困削減を援助目標に掲げるようになり、マイクロファイナンスの支援への関心を高めている。
 国際協力銀行の具体的な支援事例は現在までで、バングラデシュの農村開発信用事業によるグラミン銀行への支援、スリランカの貧困緩和事業の2件である。このほか、一般案件のサブ・コンポーネントとして、植林事業や農村開発とマイクロファイナンスを組み合わせている。また、最近は提案型・発掘型案件形成調査でマイクロファイナンスに関する調査を行ったり、マイクロファイナンスのセミナーを開催している。
 国際協力機構は、現金の貸付スキームがないため、他の援助機関が行うようなマイクロファイナンス機関への原資供与は行わない。しかし、技術協力プロジェクトにおいて、農業プロジェクトやWIDプロジェクトのコンポーネントに取り入れている。平成10年度に創設された回転資金制度は、物品を住民組織やNGOを通じて住民組織に提供し、住民からの返済金(または物品)をプールして、同様の活動の展開に使用する制度である。現在このスキームを活用して、様々な取り組みが始まっており、今後、特に総合的地域開発プロジェクトでの成果を期待したい。
 外務省の草の根・人間の安全保障無償資金協力にもマイクロファイナンス支援のスキームがある。原資の贈与なので、モニタリングが重要になる。青年海外協力隊員の活動や専門家派遣などとのリンクが効果的だと思われる3

7. 関連リンク

  1. The CGAP(The Consultative Group to Assist the Poor)
    「金融システムアプローチ」に基づく様々な議論や資料を援助機関や実施機関向けに提供。
    http://www.cgap.org/index.html

  2. The Microfinance Gate way
    CGAPによるマイクロファイナンス産業のためのフォーラム。
    http://www.microfinancegateway.org/

  3. UNCDF Microfinance
    UNCDF(国連資本開発基金)のマイクロファイナンス支援活動を紹介。
    http://www.uncdf.org/english/microfinance/

  4. MicroSave-Africa
    新規商品開発のパイロット・ツールを提供。
    http://www.microsave-africa.com

  5. USAIDによる零細事業育成プロジェクト。
    http://www.usaidmicro.org

  6. The Virtual Library on Microcredit
    テーマ別資料やサイト情報、国別の実施機関情報。
    http://www.gdrc.org/icm/

  7. The Alternative Finance
    マイクロファイナンス関連の記事やイベント情報を掲載。
    http://www.alternative-finance.org.uk/en/intro.html

  8. Microcredit Summit Campaign
    貧困層貸付アプローチに主眼をおく。
    http://www.microcreditsummit.org/

  9. Small Enterprise Development
    零細企業やMF育成をテーマとする実務者向け雑誌。
    http://www.itdgpublishing.org.uk/sed.htm

  10. Journal of Microfinance
    実務者向け雑誌。
    http://marriottschool.byu.edu/microfinance/
参考文献:
岡本真理子・粟野晴子・吉田秀美編著(1999)『マイクロファイナンス読本』明石書店/FASID。
1   途上国各地で見られる非制度金融(インフォーマル金融)の一形態。近隣者や同業者で構成するグループで互恵的に行われる貯蓄と貸付の仕組みである。メンバーが定期的に掛け金を払い、毎回各1名がその全額を受け取って利用し、全員に順番が一巡すると終了する。金利や規模、方法は地域によって異なり多様である。
2   グラミン銀行が採用して有名な、貧困女性にターゲットを絞っての5人組の連帯保証制や毎週の返済、移動銀行は、貧困層の密度が高く、日常的にキャッシュフローのある環境に適している。これと同じ方法を、経済活動の種類が限られ、人口密度の低いマラウィ(バングラデシュの1平方kmあたり848人に対して南部州で125人)で導入したが、運営コストがかかりすぎて持続しなかった。一方、ジンバブエでは女性たちの自助的な貯蓄活動が急速に成長して成功を収めている。
3   ウズベキスタンでは、ADBが日本貧困削減基金によるプロジェクトにマイクロファイナンスの専門家として青年海外協力隊員が派遣されている。

DAKIS課題別基礎情報>セクター:マイクロファイナンス