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援助機関・国

世界保健機関(World Health Organization: WHO)と開発
国際基督教大学準教授 近藤正規作成
戸田陽一郎編集

1. 組織目的

 医療・保健分野の向上を目指す国際連合の専門機関の一つとして1948年に設立された。世界保健機関(WHO)憲章によると、「全世界の人が、可能な限り最高の健康水準に達すること」を、その組織目的としている。またWHOにおける「健康」とは、「身体的、精神的、社会的に完全に健康な状態であり、単に疾病や疾患がないということではない」と定義され、WHOが達成すべき目標は高く設定されている。そのため、伝染病撲滅に関する研究、適正な医療・医薬品の普及だけに留まらず、ベーシック・ヒューマン・ニーズ(Basic Human Needs: BHN)分野での活動や健康的なライフスタイルの推進にも注力している。

2. 資金

 予算は2年ごとに決定され、一般会計予算(Regular Budget)と任意拠出金(Extra Budgetary Source)からなる。前者の拠出金額は加盟各国の支払能力に応じて算定され、通常の援助計画に用いられる。ただし、拠出金額に関わらず、加盟国は一国につき一票の投票権が与えられている。2004−2005年度の高額拠出国はアメリカ(22.0%)、日本(19.2%)、ドイツ(9.6%)、フランス(6.3%)、イギリス(5.4%)となっている。

 また、任意拠出金は一般会計以外全ての資金を指し、二国間ドナーやその他国連機関(UNDP、UNICEF)、各種財団、NGO、各国政府が主な拠出団体となっている。二国間ドナーは任意拠出金の60%を担う一方で、国連機関からの拠出割合は減少傾向にある。

3. 組織構成

 WHOは大きく分けて、五つの組織(総会、執行理事会、本部事務局、専門家諮問部会、地域事務所)から構成される。

1) 総会(World Health Assembly: WHA)
 全加盟国(現在192カ国)によって構成される最高意思決定機関で、毎年5月に本部のあるジュネーブで開催される。総会では基本方針や事業計画の決定、執行理事の選出、予算の検討・承認、財政面の監督が行われる。
2) 執行理事会(Executive Board: EB)
 32カ国からの保健・医療分野の専門家により構成され、年に二回(1月と5月)に開かれる会合で、総会での協議事項を選定し、決定された政策の具現化を図る。なお、理事の任期は3年で、出身地域が偏らないようにされている。
3) 本部事務局(Secretariat)
 六つの地域事務局(後述の「地域事務局」参照)と連携しながら、実際の業務を行う機関である。執行理事会が推薦し、総会で決定された事務局長(任期5年)の指揮下に、3,500人ほどの各種専門家やプロジェクトごとのサポートスタッフがおり、WHOの政策を各国に広め、保健・医療水準向上のため活動している。
4) 専門家諮問部会
 医学・保健分野の専門家集団で、政策立案の際に専門的見地より助言を行う。現在は56の部会で構成されている。
5) 地域事務局(Regional Offices)
 六つの地域ごと(ヨーロッパ、アフリカ、東地中海、東南アジア、アメリカ、西太平洋)に柔軟性のある政策を実施すべく設置されている。所属する地域事務局内では、個々の加盟国による自由な政策決定が可能であり、地理的条件よりも政治的背景が強く影響することもある。

4. 最近の戦略・政策

 1977年の「2000年までにすべての人に健康を(Health For All: HFA by the Year 2000)」プログラム採択により、地域に根ざしたプライマリー・ヘルス・ケア(Primary Health Care: PHC)の提供をWHOは基本政策としながら、1)保健医療分野での世界的な指針作成、2)健康に関するグローバル・スタンダードの提示、3)加盟各国政府の保健医療政策支援、4)適正医療技術や情報の標準化、発展、移転の四つの側面から個別の課題について活動している。具体的な主な課題としては、PHCの強化、開発途上国の医薬品供給・管理の強化、HIV/エイズ対策、タバコ対策、熱帯病研究、ポリオ根絶等が挙げられる。

 また1999年に執行理事会により承認されたWHOの長期政策では、技術、知識、政治指導の増強を通じて、人々の健康とコミュニティの確立と不健康の撲滅を目標としている。さらに2002年から2005年の中期的な政策方針では、1)貧困地域での高い死亡率と疾病罹患率の低下、2)健康的な生活様式促進のための、環境、生活習慣、経済的要因から生じるリスクの減少、3)健康状態改善のための、金銭的負担の少ない公平なシステムの提案、4)保健セクターの活動を円滑にさせる政策の立案並びに他セクターとのパートナーシップ増進の四つの方向性を政策の中心としている。中期的な政策方針では、こうした方向性達成のためにWHOが果たすべき六つの役割も指摘されている:1)過去の経験に基づいた一貫性のある政策提言、2)現状や推移に関する情報の整備を通じた研究活動の推進、3)各種技術・政策へのサポートを通じた国家の能力強化、4)国内及び国際的パートナーシップの推進、5)国際基準や標準の確立、6)新技術の開発や試験に関するガイドライン作成。

  なお、WHOは国連の専門機関であることから、2000年のミレニアム・サミットで採択された「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)の達成も併せて目指している。

5. 政策スタンス

 近年のWHOの政策スタンスとしては、(1)貧困削減と経済成長への配慮、(2)援助効果の明確化、(3)他ドナーとの協調、(4)NGOとの協力関係、(5)費用対効果の重視の五項目が挙げられる。

(1)貧困削減と経済成長への配慮
 WHOは保健医療レベルの向上は貧困削減と長期的経済成長発展を促すと考えるものの、現状を踏まえた冷静な観点から、貧困削減から経済成長を目指す政策を立案している。しかし、WHOが委託先のハーバード大学から2001年に受けた調査報告1によると、保健部門への更なる資本投下は不可欠で、今後も援助を拡大しなければMDGsの達成は難しいとしている。

(2)援助効果の明確化
 WHOは無償援助にて、その援助政策を実施してきたが、昨今の世界的な財政状態の悪化から、援助の「目に見える効果」が問われるようになってきた。そこで、2000年からは技術面と財政面の両面から、目標に向けての進捗状況がチェックされている。こうした評価はWHO全体、各事業本部、地域事務局、国の四段階で行われ、外部の専門家を交えながら、それぞれの貢献度や目的達成度が測られる。

(3)他ドナーとの協調
 WHOは保健衛生分野における中心的存在であり、他のドナーと協調して活動することでより大きな成果を追求している。例えば、世界銀行、国連開発計画(UNDP)とは「熱帯病のための研究研修特別プログラム(UNDP-World Bank- WHO Special Programme for Research and Training in Tropical Disease)」を共同で実施している。またアジア開発銀行とは1998年にアジアでの保健プロジェクトに関する共同セミナーを開催した。二国間援助機関では、米国国際援助庁(USAID)との間に1999年に政策協調を進める覚書を交わし、英国国際開発庁(DFID)とは1998年にボスニア・ヘルツェゴビナにおける保健分野を通じた平和構築プログラム(Peace through health programme)を施行している。

(4)NGOとの協力関係
 NGOの影響力の増大に伴いWHOはNGO政策を1996年に見直したが、現在WHOとNGOとの間では「公式」な関係と「非公式」な関係が存在する。「公式」な関係を有するNGOは、投票権はないものの総会に出席し、意見陳述ができる。ただし、「公式」な協力関係となるには、NGOは事前にWHOとの活動予定や共同作業を定め、その協力体制の妥当性が検討された上で、WHO執行理事会からの承認を必要とし、認定までに相当の時間がかかる。2002年7月時点では189のNGOが公式関係を結んでいる。

(5)費用対効果の重視
 援助効果を測定し、パフォーマンスの向上や適正な優先順位に準じた援助を推進するために、WHOは1998年にGlobal Program on Evidence for Health Policy (GPE)というプログラムを設け、世銀で用いられていた基準を基に、WHO-CHOICE(Choosing Interventions that are Cost Effective)と呼ばれる地域・分野別の援助費用と効果を比較検討するためのデータベースを作成した。これまで公開されている指標としては、1)幼児期の栄養失調、2)鉄分不足、3)その他栄養素不足、4)精神衛生、5)公衆衛生、6)健康管理、7)性教育・HIV/AIDS、8)高依存性薬物が挙げられ、これらは六つに分けられた地域区分の下で、さらに国の発展レベルに応じて二段階もしくは三段階に分けられている。WHOはこれを一般公開することで、より効果的な援助が可能となることを期待している。

6. 日本との関係

 上述のとおり、日本はWHOに対する上位拠出国として(2004-2005年度で19.2%を拠出)資金面で貢献している(「2.資金」参照)。また、西太平洋地域事務局長は2004年から二期目を迎える尾身茂氏をはじめ44名が2003年8月時点で務めており、人的にも日本は貢献している。

 さらに日本国内にはWHOの研究拠点もいくつか存在する。国立国際医療センターは国際保健医療開発の研究協力センターとして、また国立感染症研究所はインフルエンザ等の研究協力センターとして指定を受け、WHOの研究を支援している。さらに世界保健機関(WHO)神戸センター(WHO健康開発総合研究センター)では、社会、経済、環境や技術面での変化が及ぼす健康への影響、またそれらの保健政策への反映について研究している。

7. 重要文献

・WHOの戦略や政策などに関する文献
  1. 日本国際保健医療学会(編)(2001)『国際保健医療学杏林書院』。

  2. 国立国際医療協力センター(2001)『国際保健医療協力ハンドブック』国際開発ジャーナル社。

  3. 小早川隆俊(編著)(1998)『国際保健医療協力入門』国際協力出版会。

  4. DFID (1998), WHO/ DFID Peace through Health Programme.

  5. Sachs, J. et al. (2001), Macroeconomics and Health: Investing in Health for Economic Development, WHO.

  6. UNDP/ World Bank/ WHO (2003), Progress 2001-2002, Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases (TDR).
・WHOが定期的に刊行している主な報告書
  1. The World Health Report, Geneva: WHO. (邦訳:世界保健機関編『世界保健報告』英伝社。)

  2. The Weekly Epidemiological Report (WER), Geneva: WHO.
・WHO関連統計資料
統計・データに関するWHOのホームページ(www.who.int/research/en/)にて、WHO所蔵のデータやWHO発行の資料が入手可能。

8. 関連リンク

  1. 世界保健機関(WHO)
    WHOが取り組む課題やWHO主催のイベントが紹介されている他、WHO加盟国の保健医療分野に関する統計やWHO発行の文書の検索ができる。
    http://www.who.int/en/


  2. 世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局
    日本が所属するWHO西太平洋地域事務局のサイト。西太平洋地域事務局が扱っているHIV/エイズやマラリア等特定の課題や保健医療水準向上のための取り組みなどについて紹介している。
    http://www.wpro.who.int/


  3. 世界保健機関(WHO)神戸センター(世界保健機関健康開発総合研究センター)
    グローバルネットワーク構築と積極的な研究を通じて保健医療分野の向上を図るために、1996年3月に開設された機関。
    http://www.who.or.jp/


  4. 国際協力機構(JICA)
    リプロダクティブ・ヘルス/ライツの観点からの人口対策や、予防に関する知識普及活動と検査・研究に重点を置いたHIV/エイズ対策について紹介している。またグアテマラやホンデュラスのシャーガス病対策ではWHOと連携して活動した実績がある。
    http://www.jica.go.jp/Index-j.html


  5. 厚生労働省
    WHOの活動を支援する厚生労働省のサイト。SARS対策等WHOへの支援活動における厚生労働省の取り組みが紹介されている。
    http://www.mhlw.go.jp/


  6. 国立国際医療センター
    1993年10月に開設され、開発途上国における保健医療分野の向上を目的として、医師や看護師等の専門家派遣や人材養成、研修生受け入れ、国際医療協力の調査・研究等を行っている。またWHOから保健医療開発に係る技術協力のための研究協力センターの指定を受けている。
    http://www.imcj.go.jp/imcjhome.htm


  7. 国立感染症研究所
    1947年に設立された、感染症対策に関わる基礎研究及び応用研究、 抗生物質やワクチン等の開発とそれらの品質管理のための試験研究機関。インフルエンザ等の研究協力センターとしてWHOから指定を受けている。
    http://www.nih.go.jp/niid/


  8. (社)日本WHO協会
    WHO憲章の精神の幅広い普及を目的とした公益法人として1965年に京都にて設立。
    http://www.japan-who.or.jp/

1 DAKIS文献紹介No.12 http://dakis.fasid.or.jp/report/pdf/BriefingReviewNo.12.PDF 参照。
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