世界銀行(国際復興開発銀行(IBRD)・国際開発協会(IDA))
FASID 秋山孝允
戸田陽一郎
1.組織目的
世界銀行(以下、世銀)グループのうち、途上国へ融資及び無償援助を行っているのは国際復興開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA)である。設立当時に合意されたIBRDの設立協定によると、IBRDの目的は1)第二次大戦後の経済復興などを目的とした投資の促進による加盟国の復興と開発の支援、2)民間による融資や投資への保証や介入を通じた海外民間投資の促進、3)加盟国の生産資源開発への国際投資奨励による、長期的均衡の取れた国際貿易と国際収支維持の促進、4)IBRDによって実行または保証された、IBRD以外のチャネルに関する国際融資の調整、5)戦時から平時へのスムーズな移行支援を目的とした国際投資効果に関する操作の実施となっている。
一方、国際開発協会(IDA)は設立協定によると、従来の融資条件よりも柔軟かつ国際収支への負担の少ない条件での融資による、加盟国内の低開発地域の経済開発の促進、生産性と生活水準の向上を目的としている。しかし、2003年よりIDA資金の20%程度は社会関連インフラだけに使われることを目的とした無償援助を行っている。世銀は世界最大の援助機関、また知的リーダーとして世界開発コミュニティで位置づけられている。
2.歴史的背景
IBRDは国際通貨基金(IMF)と共に、上述のように第二次世界大戦後の西欧諸国の復興を促すことを目的として、1944年に設立された。その後、西欧諸国の復興が進むにつれ、開発途上国へ融資することが最大の目的となった。IDAは1960年に設立されたが、その当時独立した多くの国がIBRDの金利条件で融資を受けられなかった。そのため、利息や資金返済期間などの条件がより緩和された融資機関が求められ、設立に至った。
世界銀行の戦略は大きく三つの時期に分けられる。一つめは第二次世界大戦から1970年代半ばまでで、この時期は政府主導の大規模インフラ・プロジェクトへの投資が主流であった。次の1970年代半ばから1980年代後半までの時期は、構造調整融資の下での途上国政府の経済活動への干渉を減少させる政策を採り、最後の1980年代後半から現在までの時期は、貧困削減に焦点を置き、途上国の政策・制度などを重視している。
これらの時期を通じて、世銀は各国政府やその時代の開発理論に影響を受けてきたが、中でもアメリカの影響力は最も強く、アメリカは最大の出資国であるとともに、アメリカ政府が実質的に選出したアメリカ人が、代々総裁を務めてきている。しかし、近年ヨーロッパ諸国の影響力が増し、イギリスのショート元国際開発大臣が推進した貧困削減の方針は、世銀にも強い影響力を与えている。
3.資金・組織構成
(1)資金
世銀の融資資金源はIBRDとIDAとでは、全く異なる。IBRDは世界の金融市場で世銀債を売り、市場金利に少し上乗せした金利で途上国へ融資しており、この面では市中銀行の業務とあまり変わらない。一方、IDAは譲許的な融資を行っており、IDAの自己資金やIBRDからの拠出金の他、三年に一度、主要メンバー国から拠出される出資金を資金源としている。なお、IDA13次増資の合意に基づき、2003年7月から始まる2004年会計年度からの3年間は、IDAによる援助の内20%は無償援助となり、この割合は今後増えるため、3年毎の増資交渉で、主要出資国からいろいろな要求を突きつけられることが予想されている。
(2)組織構成
世銀の正規職員はおよそ1万人だが、被援助国に滞在する職員を増やし、現地における決定権を増す方針が1990年後半に採られ、国別担当局長(Country Director)のポストを含め、この数年増加傾向にある。本部のあるワシントンの他、100近くの国にある事務所で働いている職員の数は、全職員の3分の1にあたる。また融資業務担当職員は地域別副総裁の下に配置されているが、特定の国を担当しているわけでなく、配置されている地域以外の仕事をすることもある。これら職員はそれぞれの専門分野を持ち、専門別のグループ(ネットワーク:Network)にも属している。この組織体制は世銀でマトリックス(Matrix)と呼ばれ、融資担当職員は、地域(Region)、ネットワークの双方から評価される。しかし、融資に関する予算は国別担当局長が管理しており、融資に関する権限はネットワークより地域の方にある。
世銀の政策や融資などの重要案件は総て理事会の承認が必要であり、180カ国以上からなる世銀のメンバー国は理事会における議決権を持ち、原則として議決権は各国の出資金、GDP、人口によって決められる。理事会では24人の理事がメンバー国を代表するが、設立協定に基づき、24人の理事のうち、5人は議決権の多い国が占める。なお、2003年6月時点でのIBRDにおける議決権配分の上位5カ国は、以下のとおりである:アメリカ(16.41%)、日本(7.87%)、ドイツ(4.49%)、イギリス(4.31%)、フランス(4.31%)。途上国で議決権が大きいのは、バングラデシュ・ブータン・インド・スリランカグループ(3.40%)、中国(2.79%)である。
4.最近の戦略・政策
世銀の開発援助戦略において、最近議論されている主な項目として、(1)協調、(2)結果重視、(3)無償援助と借款、(4)財政援助、(5)融資ツール、(6)政策・制度への支援、(7)貧困削減と経済成長が挙げられる。
(1)協調
1998年に提案された包括的開発フレームワーク(Comprehensive Development Framework: CDF)では、被援助国が当事者意識を持ち、自ら政策・プログラムを企画した方が援助の効率と効果が上がるという考えをもとに貧困削減戦略文書(Poverty Reduction Strategy Paper: PRSP)が生み出された。PRSPは被援助国が作成することとなっており、ドナーや国際機関を含む全てのステークホルダーは、このペーパーで合意された計画に沿って活動を行うこととなっている。しかし、各ドナーや機関はそれぞれの援助政策、目的、様式(modality)があり、協調は決して容易ではなく、また協調はドナー・機関間の競争を妨げ、被援助国にとって不利であるとも言われる。
(2)結果重視
アメリカからの強い要請もあり、IDA13(2003/7〜2006/6)次増資から援助結果を測定することが決議され、IDA13の期間中は暫定的な結果測定システム(Results Measurement System)を実施し、IDA14からはより充実したシステムを導入することとなっている。しかし、IDA対象国に関しては統計が未整備な国が多く、国際機関や主要ドナーが技術援助を行っても数年で大幅な改善ができるとは思われず、今後数年は結果測定との関連で多大な時間、資金、人材が費やされると見込まれている。
(3)無償援助と借款
詳細は後述するが(【資金】の項目参照)、IDAは2003会計年度からその資金の約20%を無償援助に当てることになった。今後IDAが無償援助を増やしていくかは定かではないが、増やしていった場合、国連開発計画(UNDP)をはじめとした国際機関との役割分担が問題となる可能性がある。
(4)財政援助
世銀は1980年代から政策ベース融資で被援助国の経済全体または特定セクターの改革に必要と判断される政策変更の支援を目的とした財政援助として構造調整融資を始め、融資を受ける際に被援助国はコンディショナリティを受け入れなければならなかった。その後、この種の融資は調整融資と名を変え、現在も続いている。またPRSPと関連した貧困削減支援融資(Poverty Reduction Support Credit: PRSC)も被援助国の貧困削減政策実施のための財政援助である。こうした調整融資とそれに伴う貸付条件(コンディショナリティ)のあり方は1980年代、1990年代に批判を受け、ステークホルダーとの協調下で政策や制度の改善・構築に重点を置くようになったと言われている。しかし、コンディショナリティの効果、内政干渉への抵触、被援助国側の改善へのインセンティブなどの観点から議論が続いている。
(5)政策・制度への支援
この数年の世銀の研究により、政策と制度が整備されている国での援助は有効であるとされ、援助対象国の選択(Selectivity)の問題として、被援助国のガバナンスを含む政策・制度の整備状況が援助資金の配分に影響を与えるようになっている。IDA資金配分にも世銀は国別政策・制度評価(Country Policy and Institutional Assessment: CPIA)を活用し、経済運営、構造に関する政策、社会的包含・平等化政策、公共セクターの管理と制度などの分野から経済・社会政策の実施状況やガバナンスの状況を評価し、資金配分を決定している。
(6)融資ツール
変化している途上国の状況と新しい政策の実施のために新たな融資ツールが必要であるとの観点から、世銀はいろいろな融資ツールを開発してきた。貧困削減政策の遂行を目指しているPRSCは、その一例である。またプログラマティック・アプローチ(Programmatic Approach:目的を設定して、その目的達成のための複数プロジェクトを長期間に渡り継続して行うというやり方)が援助の主流を占め、単発プロジェクト(Stand-alone Project)は少なくなっている。
(7)貧困削減と経済成長
世銀は貧困削減を中心戦略項目に位置づけており、学校や病院など社会インフラ関連への融資はIBRDで増加しており、またIDAではガバナンス関連の次に大きい。しかし、民間による道路や電力など経済インフラへの投資のこの数年の大幅な減少、また社会関連インフラの過度の重視という批判から、2002年頃から経済インフラの重要性が見直され、2003年7月の理事会ではインフラ分野への投資強化が決議された。
5.政策スタンス
世銀の政策スタンスの詳細は、世銀発行の中期政策(2002〜2004の3年間をカバー)『世銀グループ:戦略の枠組み(Strategic Framework: SFP1)』や世銀年次報告に記されている。SFPの「挑戦:グローバル化の時代における貧困との戦い」と称する章では、世銀グループ内及び他の機関・ドナーと協調して目標達成に努め、管理、説明責任、成果測定を強化して援助効率を高めることが必要としている。
次の「戦略的対応:世銀グループのインパクトの強化」の章では、世銀の援助効果を上げるために、最大の効果が出る分野に集中することが重要としている。選択は被援助国内セクターレベル、被援助国間レベル、地域・世界レベルで行われ、他の機関が比較優位を持っていると判断された場合には、世銀は主導的な立場を取らないとする。また、世銀はガバナンス、ジェンダーなどセクター横断的な開発問題を主要得意分野(Core Competencies)とし、また貧困削減の重要な柱である、投資や持続的成長のための環境整備やその基盤となる社会・構造に関する政策・制度への支援を強化するべきとしている。
最後の「実施:重要課題」の章では、こうした戦略を実施する上での活動方針として、1)1997年に始められたストラテジック・コンパクト以降の方針強化、2)他ドナー・機関との協調強化と活動の焦点の絞り込みによる選択性の向上、3)優先順位の高い分野へのリソース配分を挙げている。なお、コンパクト以降の方針としては、知識・助言サービス、キャパシティ・ビルディングなどの供与、多国間開発銀行間との手続きの調和などが挙げられる。また、リソース配分の効率化のためには、途上国のニーズに適応するように現在のマトリックス・マネージメントにおいて、地域とセクターグループとの連携強化、現地事務所への権限委譲などに努めるとしている。
上記より、世銀の政策スタンスは具体的な目標である(Millennium Development Goals: MDGs)の達成を効率的かつ効果的に行えるように世銀の得意分野を考慮し、他のドナーや機関、NGOと協調しつつ、選択された国や分野で活動を行うことであり、そのために組織、マネージメント、融資ツール、評価方法の強化・改革を進めることと言える。
6.日本との関係
(1)経済インフラへの貢献
歴史的にも、新幹線等の大規模インフラに対しての資金的支援を受けるなど、日本と世銀の関係は長く緊密である。日本は、アメリカに次ぐ世銀への拠出国であるにも関わらず、政策面での貢献は限られていると言わざるおえない状況が続いてきた。教育や保健・医療分野への援助が貧困削減戦略において重要視されているが、この数年道路・ダムなど経済インフラが見直されている。世銀を含めた国際援助コミュニティが学校や病院など社会関連インフラに偏向していたという意見も世銀内にあり、日本による経済インフラの重要性に関する主張を評価する動きもある。日本・東アジアの経験を生かし、この分野での研究を世銀などとの協調の下に進め、世銀の政策に結び付ければ、日本はより貢献できる。
(2)資金的貢献
世銀にとって日本は第二の資金供与国であり、IBRDには153億ドル(IBRD資本金の約8.1%)、IDAには約241億ドル(IDA12後の約22.1%)を出資している。また、世銀との協調融資においては、1971年の開始以降実績を上げ、日本は最大の資金供与国となっている。さらに、日本は1990年7月に世界銀行研究所(WBI)に開発政策・人材育成(Policy and Human Resources Development: PHRD)基金を設立し、WBIによる途上国のキャパシティ・ビルディングを支援すると共に、2000年6月には日本社会開発基金(Japan Social Development Fund: JSDF)を設立し、1997年以降のアジア通貨危機がもたらした社会的影響の緩和、改善を支援している。
(3)知的貢献
日本の政策面での貢献は限られたものであったが、1993年に出された「東アジアの奇跡」は、日本の提案、資金援助のもとに行われていたものであり、この研究はそれまでの新古典派的アプローチに偏りすぎていた世銀の方針を変える効果があったと考えられている。
7.課題
世銀における最大の課題は、IBRDの貸付が停滞状態にあり、2003年の年次報告(DAKIS開発援助の新しい潮流:文献紹介No.33)によると、途上国からの返却資金が貸付資金を大きく(約80億ドル)上回っていたことであろう。この原因の一つは、社会インフラにこの数年貸付が偏りすぎていたことがあると思われる。この傾向を是正するにも経済インフラへの貸付の増加は重要であろう。
また、IBRDの貸付の減少はIDAの重要性が世銀で増すことになった。この政治的インプリケーションは、先進国の世銀の政策面での影響の増大である。IBRDは債権によってその資金はまかなわれているが、IDAは先進国の3年ごとの拠出金によってまかなわれ、そのたびに交渉が行われる。この交渉時に先進国の世銀に対する要求が出され、世銀はこれらの要求に沿って政策、行動を変えざるをえない。
8.重要文献
・ 世銀の戦略や政策などに関する文献
- 秋山孝允、秋山スザンヌ、湊直信(2003)『開発戦略と世界銀行』知泉書館
- 大野泉(2000)『世界銀行開発援助戦略の変革』NTT出版
- 世界銀行(1994)『東アジアの奇跡:経済成長と政府の役割』東洋経済新報社
- 世界銀行、小浜裕之、冨田陽子訳(2000)『有効な援助:ファンジビリティと援助政策』5.東洋経済新報社
- 山口健冶(1995)『世界銀行:日本が世界に貢献していくためには』近代文芸社
・世銀が定期的に刊行している報告書
- The World Bank annual report. Washington D.C.: the World Bank(邦訳:世界銀行『世界銀行年次報告』世界銀行東京事務所)
- World Development Report. Washington D.C.: the World Bank.(邦訳:『世界開発報告』シュプリンガー東京)
- Global Development Finance. Washington D.C.: the World Bank
Global Economic Prospects. Washington D.C.: the World Bank
・世銀が事業展開する諸分野の統計資料
- 統計・データに関する世銀のホームページ(http://www.worldbank.org/data/)にて、以下の資料所蔵のデータをはじめ入手可能。
- World Development Indicators. Washington D.C.: the World Bank
- World Bank Atlas. Washington D.C.: the World Bank
・関連リンク
- 世界銀行グループ
http://www.worldbank.org/
世銀が取り上げているイシューやメンバー国での活動紹介の他、世銀収集の統計資料や世銀作成のレポートやペーパーの検索ができる。なお、IDAや国際金融公社(IFC)など他の世銀グループ機関にもリンクしている。
- 世界銀行東京事務所
http://www.worldbank.or.jp/
世界銀行の業務内容、開発アジェンダの内容紹介、東京事務所主催のイベントやセミナーに関する案内の他、世銀事務所保管の蔵書検索、世銀発行物の検索ができる。
- 世界銀行貧困ネット
http://www.worldbank.org/poverty/index.htm
エンパワーメント、保健、社会関係資本など貧困削減における主要イシューに対する世銀の取り組みの他、貧困削減戦略文書(PRSP)がダウンロードできるサイトへのリンクがある。
- 世界銀行日本社会開発基金(JSDF)
http://www.worldbank.org/rmc/jsdf/index.htm
1997年に発生したアジア通貨危機によって影響を受けた、貧困層の生活向上を目的として、2000年6月に日本政府と世銀により設立された無償資金援助ファシリティ。
- 国際通貨基金(IMF)
http://www.imf.org/
IMFの役割、貸付実績をはじめとした業務内容やメンバー国におけるIMFの活動紹介、IMF発行の出版物の検索ができる。
- 財務省国際局
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/frame.html
世銀をはじめとした国際開発金融機関や国際通貨基金(IMF)の業務内容や日本政府による各機関への支援内容、活動内容を紹介している。
- 国際協力銀行(JBIC)
http://www.jbic.go.jp/japanese/index.php
JBICの国際金融業務、経済協力業務の他、ベトナムにおける世銀やアジア開発銀行との間の援助手続きの調和化に対する取り組み等について紹介している。
- ディベロップメント・ゲートウェイ基金
http://www.developmentgateway.org/
開発のための知識へのアクセスを提供する情報システムの構築によって、途上国の人々の生活を向上させることを目的として、2001年7月に世銀支援の下で設立されたNPO。
1 世銀で使われている頭字語で、SFPの最後のPはPaperを表す。
|